心臓の身体診察
心臓の診察についてです。
仰臥位にて視診を行う。
・心臓の診察は仰臥位で行うのを標準とする。
・仰臥位では外頚静脈は怒張しているのが正常です。
・怒張がない場合は脱水症や失血などによる循環血漿量の減少を示唆する。
・内頚静脈は2相性の下降、体位による変動、吸気で最高点が低下する、腹部の圧迫で拍動が上方へ移動するなどの特徴が頸動脈との見極めに有用である。
・胸骨角からの拍動の最高点までの垂直距離が3cm以上(推計右房圧8cmH2O以上)を静脈圧の上昇とみなす(陽性尤度比9.0)(McGeeより)。
・内頚静脈の観察による静脈圧の推定は臨床的に有用である。しかし、心駆出率の推定には役立たない。
触診も仰臥位で行う。
・仰臥位の触診にて、心尖拍動が鎖骨中線より概則にあれば心胸郭比が50%以上(陽性尤度比3.4), 駆出率が50%未満(陽性尤度比5.7), 左室の拡張末期容量の増加(陽性尤度比8.0), 肺毛細管楔入圧が12mmHg以上(陽性尤度比5.8)であることを示唆する(McGeeより)。
聴診は患者に息を止めてもらう事を原則とする。
頸動脈について、無症候性の雑音は5年以内の同側の脳梗塞、一過性脳虚血の増加、虚血性心疾患の増加を示唆する。しかし、早期治療の予後改善結果は示されなかった。また、75歳以上の高齢者では血管雑音の有無は予後に影響しない(Sauve JS et al.:JAMA 270:2843-5,1993)。
1音
・房室弁の閉鎖により生じると考えられている。
・心尖部で最も大きく聴取できる。
・脈拍が一定にも関わらずⅠ音の強さが変化しているときは、房室解離を強く示唆する(陽性尤度比24.4)(McGeeより)。
Ⅱ音
・心基部(第2肋間胸骨右縁と左縁)で最も大きく聴取できる。
・大動脈弁成分(ⅡA)と肺動脈弁成分(Ⅱp)で構成される。
Ⅲ音、Ⅳ音
・Ⅲ音、Ⅳ音は低周波音で、心尖部でのみ聴こえることが多いため、ベル型で聴診するのは通常は心尖部だけで構わない。
Ⅲ音の聴取は左側臥位45度で行う。
・Ⅲ音の存在は心収縮率の低下(陽性尤度比3.8~4.1)と左房圧の上昇(陽性尤度比5.7)を示す。
・呼吸苦でER受診した患者でⅢ音聴取するば、心不全である可能性を強く示唆する(陽性尤度比11)(Wang CS et al.: JAMA294: 1944-56, 2005)。
・急性の胸痛患者でⅢ音を聴取するときは心筋梗塞を示唆する(陽性尤度比3.2)(Panju AA: JAMA280: 1256-63, 1998)。
心雑音について
・特異度の高い心雑音は軽度以上の三尖弁逆流症(陽性尤度比14.6)、軽度以上の大動脈弁逆流症(陽性尤度比9.9)、肺動脈弁逆流症(陽性尤度比17.4)の3つ
・大動脈弁狭窄症(陽性尤度比3.3)と僧帽弁逆流症(陽性尤度比5.4)は鑑別が難しい(McGeeより)が、頚部に放散するか腋窩に放散するかを確認することが重要である。
・心雑音が聴かれた場合の観察のポイントはABCDEFで覚える。
A: Amplitude 雑音の強さはLevine分類で何度?
B: Best heard area 雑音の最強点は何処?
C: Character 雑音の性状は 雷鳴様、楽音様など
D: Diastolic vs systolic 収縮期雑音か拡張期雑音か?
E: Ejectional vs regurgitant 駆出性雑音か逆流性雑音か?
F : Further radiation 放散は?
*例えば、「Levine3/6の第2肋骨胸骨右縁に最強点のある荒々しい音色の収縮期の駆出性雑音で、主に頚部に放散している。」と、記載する。
参考文献: 宮崎景, 伴信太郎著. 「エビデンス身体診察‐これさえ押さえれば大丈夫‐」
葉山内科・GIM
~以下は、病院からの写真です。~