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葉山ハートセンター ブログ


掲載日付:2018.08.17

カテゴリ:[ 血液疾患 ]

raindrop skull  多発性骨髄腫の頭蓋骨病変

NEW ENGLAND JOURNAL OF MEDICINEという医学会で最も有名な医学雑誌があります。医師の生涯教育も考えた教育マインドの高い雑誌です。そこにはクイズ形式で学べる画像シリーズがあり、皮膚所見やCT、MRIなどの写真など目で一発診断に近づけるもののトレーニングとして有用です。そこの2018年5月17日号にのっていた写真です。
頭蓋骨がこのように穴があいてみえるものですが、通常の患者さんよりも病変が強い画像です。これは多発性骨髄腫という血液疾患の患者さんの頭蓋骨の写真で、まるで雨の水滴がたくさん落ちているようにみえることがあるためこのように名づけられています。これまではpunched out lesion 打ち抜き像といわれてきたことが多かったと思いますし私自身はraindrop skullという言葉を使用してきませんでしたがこのようにもいうようです。
多発性骨髄腫は骨病変がしばしばでることで知られなかでも頭蓋骨に変化がでます。よって多発性骨髄腫の診断時にはかならず全身の骨の写真と頭蓋骨の写真もとります。なぜそうなるのかというと、骨髄腫の細胞がだすサイトカインにより、骨が作るよりも溶けるほう(溶骨)が盛んになります。そして溶骨することでカルシウムが溶け出し白く映る骨の部分が黒っぽくなりうち抜けてみえるのです。患者さんにここから脳みそがでてしまうのかい?と質問されたことがありますが、脳は硬膜という膜に守られていますし、骨にも骨膜というものがあるので、そんなにやすやすとは脳がでてくることはありません。
そのほかにもよくにた病変にpepper pot skull という副甲状腺機能亢進症にみられる頭蓋骨の病変もあります。

掲載日付:2018.08.03

カテゴリ:[ 血液疾患 ]

CHIPとは 第2話 老化?血液疾患?


CHIPとは新しい血液領域の疾患概念である。というよりも前疾患の状態、あるいは老化でみられる状態ともいえるだろうか。
前回説明したように、疾患の遺伝子が細かく大量に調べられる時代になって、MDS(骨髄異形性症候群)に関連する遺伝子(その変異)がわかってきて、病気の進展するメカニズムも解明されつつある。ところがそのMDS関連遺伝子の変異は、まったく血液に異常のない、正常と思わえるとくに高齢者の人にもみらえることがわかってきた。40歳くらいであるとほとんどいないのに、70歳くらい以上になると2%、報告によっては5-6%というものもある。それは年齢とともにさらにその比率は上昇し90歳以上であると18.4%という報告もある。
この血球数に全く異常はないのに、MDSと同じような遺伝子異常をもった細胞が血液中にクローン性に増加している状態をCHIPというのである。その関連遺伝子としてはTET2, DNMT3A,ASXL1, TP53, などが含まれている。
さてこのCHIPの人たち、血液的な異常は今はなくても、遺伝子変異を持たない正常の人と比べて将来血液の悪性疾患になる率は8年くらい観察すると10倍も高いとされる。だがMDSほどには急性白血病にはなるリスクは高くないのである。また全死亡率も高いとされる。その中に心筋梗塞などの冠動脈疾患や脳梗塞になるリスクも2倍程度に高いという研究結果が昨年だされた。これには私もなぜ?と驚いた。このCHIPと冠動脈疾患の話は次回お話しします。(参考文献:Blood.2015;126(1)9-16)

掲載日付:2018.08.02

カテゴリ:[ 血液疾患 ]

CHIPって? clonal hematopoiesis of indeterminate potential 第1話


CHIP という新しい概念が血液疾患の領域でうまれてきています。CHIP? ポテトチップス? なんて思われるかたもいるかもしれません。
近年遺伝子の検査が大量に短時間で行われるようになりました。特に血液疾患の領域では細胞が多くとれることもあり、その遺伝子を調べてどこか問題で病気になっているのかという解析が進みました。その中でわかってきたことは、年をとると別に正常の血液検査であっても血液の中にクローン性造血(ある1種類の細胞のコピーがどんどん作られていること)が行われている人がいることがわかってきました。これをCHIP(clonal hematopoiesis of indeterminate potential) といいます。この概念は、M蛋白ができているけれども多発性骨髄腫にならないMGUS(Monoclonal gammmopathy of undetermined significance) というものや、悪性リンパ腫にならないけれども血液の中にあるクローン性のB細胞増加(MBL:monoclonal B-cell lymphocytosis)とよく似ているとされます。(一般のかたには少々難しい話になりました。)

CHIPの患者さん、これらの人のほとんどは急性白血病やMDS(骨髄異形成症候群)という血液の病気には発展しません。(急性白血病やMDSは悪性細胞のクローン性造血が著明になった結果です。)クローン性造血が始まっているのに、なぜ最悪の事態に進展しないのか? そもそも老化とクローン性造血との関係はなにを意味するのか? 難しいので次回にまたお話しをすすめていきます。

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