コアグラーゼ陰性ブドウ球菌 S.lugdunensisによる感染性心内膜炎
感染性心内膜炎は細菌あるいは真菌による心臓の内膜の感染で、弁とその周囲の心内膜に炎症がおきて菌のかたまりである疣贅が作られ、そこから一部の菌塊が全身にとび塞栓症状をきたす。原因のわからない発熱の鑑別には必ず入る疾患であり、また皮疹、出血斑がでたり腎障害をきたりしたり脾臓がはれたり様々な症状のでる疾患でもある。80~90%の症例がレンサ球菌または黄色ブドウ球菌によるものである。
ブドウ球菌のうち、黄色ブドウ球菌以外の菌は、血液を凝固するコアグラーゼを分泌しないため、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)とよび、CNSは、黄色ブドウ球菌に比べて病原性の低い菌とされている。しばしば検査の際に間違ってはいりこみ検出(コンタミネーション)されたものと考えられることが多い。
ところが病変性の低いとされるコアグラーゼ陰性ブドウ球菌の一種で弁破壊の強い菌がある。S.lugdunensisである。まだききなれない知名度の低い菌種で私もきいたことがなかった。でもいざ検出されると、臨床医としてはどきどきして患者を治療しなくてはならない菌なのである。
S.lugdunensisはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌で、皮膚とくに会陰部、腋窩に多く存在する。症状としては、感染すると、皮膚、軟部組織感染症、感染性心内膜炎、骨、関節炎を起こす。感染性心内膜炎を発症するとこの菌は激しいタイプの症状を呈する。つまり弁破壊(弁が破壊されたら急激に心不全が進行する)や弁周囲の膿瘍を形成し、しばしば手術を要し死亡率も高い。ほかのCNS感染と類似しているというよりも黄色ブドウ球菌に近い性質をもつ。左室の弁に起きやすく、男性に多く、基礎疾患がある人、中年以降に多い。CNSによる心内膜炎は普通は人工弁やカテーテルなどに関連しておきるがこの菌は自然弁にもおきる。抗生物質の治療だけでは難しく弁置換を要することが多い(ブドウ球菌でによる心内膜炎では37%なのに対してS.lugdunensisでは70%) 死亡率も高い。
抗生剤は他のCNSとは異なり、メチシリン耐性株はまれで、セファゾリンなどのメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)治療に用いられる抗菌薬に対しては感受性を有する。弁周囲への広がりや心臓外への播種などにも注意して観察する必要がある。
認知度は低い菌だが、血液培養からCNSがでて、感染性心内膜炎を疑うような状況のときに、コンタミネーションと決めてかからず最後まで培養結果を確認するとともに、陽性ででたときには、弁破壊が強い菌として認識して治療にあたる必要がある菌である。
参照:Staphylococcus lugdunensis: Review of Epidemiology, Complications, and Treatment. Cureus 12(6): e8801. doi:10.7759/cureus.8801
