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心房細動の根治治療とは?治せる時代になった心房細動について

心臓カテーテルによる心房細動の治療

本邦には慢性心房細動患者が100万人、発作性心房細動患者が50万人以上いるといわれています。心房細動があると心房内血流が低下して血栓ができやすく、これが飛んで脳血管に詰まると重症脳梗塞をおこします。これまで、内科的には主に抗不整脈剤と抗凝固剤をもちいて治療されてきました。抗凝固剤(血液サラサラにする薬:ワーファリン)は脳梗塞を予防しますが、年齢とともに血管がもろくなり、大出血や脳出血を引きおこします。抗不整脈剤は最初のうちは効果がありますが、だんだんと効かなくなり、あまり増量すると重篤な心室不整脈を誘発して突然死をきたすこともあります。10年前までは、心房細動を根治するには外科的なメイズ手術でしかありませんでした。しかし、最近の心房細動のカテーテル治療の発展はめざましく、早期であればその多くは非開胸的に治るようになったのです。

1998年 フランスのHaissaguerre(ハイサゲル)教授らは心房細動発生源の大部分は肺静脈およびその周辺の左心房後壁にあることを報告しました。この領域は静脈洞原器から発生し、胎生初期には反復興奮するペースメーカー細胞が多数存在し、成人期でもその残存がみとめられます。また、肺静脈周囲は輪状筋がとりまき、電気興奮の渦(リエントリー)を起こしやすい構造を持っています。まさに頻拍を起こしやすい素地を持った場所であり、ここから心房細動が発生する機序が電気生理学的にも証明されています。この肺静脈を含む左心房後壁を隔離するとより効率よく心房細動を根治します。

図1:心臓後面CT像:心房細動発生源である4本の肺静脈と左心房後壁をしめす。

図1:心臓後面CT像

図2:右上肺静脈 起源のRapid firingから心房細動が惹起された瞬間

図2:右上肺静脈

Ⅰ:通常電極カテーテルと三次元マッピングをもちいた肺静脈と左心房後壁の隔離

不整脈のカテーテル治療は通常、末梢血管より細い直径2―3mmの心臓カテーテルを心腔内に挿入し、先端電極より高周波電流を不整脈発生源に通電することにより約60度(ゆで卵ができる温度)で標的組織を熱凝固し、不整脈を根治します。この治療法は高周波カテーテルアブレーションと呼ばれます。この方法は当院の佐竹先生が本邦で初めて成功したもので、これまでに5000例以上の症例を根治しています。

図3:通常法:先端高周波通電用電極付カテーテルによるアブレーション像を示す。

(直径2.3mmの電極カテーテル先端と接触する白い変色部がアブレーション箇所)
この方法では、電極カテーテルと接触する組織に高周波が集中的に流れて熱を発生しますので、高周波通電時間、出力、電極温度、組織インピーダンスと局所電位を慎重にモニターして焼灼程度を調節し、通電部位の潰瘍化や血栓形成を防ぎます。この通常法はすべて健康保険が適応されます。
焼灼部位が完全に貫壁性に形成できたかどうか、焼き残し(gap)が残っていないかを左心房後壁に留置した多電極カテーテルとコンピューター(EnSite System)を用いてアブレーション後三次元的にマッピングして詳細に検討します。二重チェックでgapの確認を行っていると言ってよいと思います。以下に述べるバルーンによる全肺静脈と左心房後壁の隔離( Balloon based Box isolation:文献1参照)と同範囲の隔離を心がけています(図4:下記参照)。

図4:肺静脈と左心房後壁の隔離(Box isolation)

Velocity version 3.0による3D Mapping systemによるBox isolation

NavX VelocityによるVoltage mappingの結果、左心房後壁と右肺静脈の前までが広範囲に焼灼できていることがわかります。

一番の特徴は食道の真上は焼灼しないという点です。世界中で真上を焼灼した際に左房-食道瘻(穴が空いてしまう)や食道上縁の神経を痛めてしまうという合併症の報告があります。(緑の点がアブレーションポイントを示し、食道前面を避けるように左房後壁を囲む: Box isolationが形成可能です)

II:CFAE(Continuous Fractionated Atrial Electrogram)をターゲットにするカテーテルアブレーション

最近は心房細動持続の原因となっていると思われる特殊な電位(複雑な連続性心房電位:continuous fractionated atrial electrogram[CFAE])をターゲットに治療を行うことでより治療成績の向上が得られています。実例を提示します。
白-赤色の部分がグチャグチャ電位のある領域で焼灼後は消失していることが分かります(下図参照)

治療前

黄色の矢印にあるような連続性分裂性心房電位(CFAE)が消失しています。

治療後

III:高周波ホットバルーンによる肺静脈と左心房後壁の隔離

図5:当院開発の高周波ホットバルーンカテーテル

もうひとつの方法が本院で開発された高周波ホットバルーンによるアブレーションです。このカテーテルでは、バルーン内中心部に高周波通電用コイル電極と温度センサーが設置してあります。

高周波通電しますと、バルーン中心部コイル電極と接触するバルーン内液に集中的に高周波電流が流れてジュール熱が発生し、バルーン内液を加熱してホットバルーンと成します。バルーンは弾力性に富んだポリウレタン製で、標的組織への密着性がよく、直径25mmから33mmまで拡張しますから、通常法の10倍以上の面積を一度に焼灼します。すなわち少ない通電回数、短い手技時間とレントゲン透視時間で、全肺静脈を含む左心房後壁を隔離します(文献1,4,5)。

図5:高周波ホットバルーンによる左肺静脈の隔離

この方法による治療は臨床研究として行われてきましたが、現在臨床治験が進行中です。

アブレーションの成績

これまでカテーテルアブレーションを用いて抗不整脈剤抵抗性の心房細動患者を600例以上治療してきました。通電中は食道温度モニターや横隔膜神経ペーシングをおこなっていますので、器質的心疾患がなければ食道穿孔や横隔膜神経麻痺などの重篤な合併症もありません。当院では下(図6)にしめすように、全肺静脈のみならず左心房後壁を全部隔離しますので、肺静脈隔離のみより治療成績はよく、1セッションで発作性心房細動の患者87%を、持続性心房細動の70%を治します。ワーファリンや抗不整脈剤から開放された患者さんは大変喜んでおられます。長期成績については追跡中ですが、従来の肺静脈隔離法よりは相当良い成績となりそうです。

まとめ

心房細動は重症脳梗塞をひきおこす恐るべき不整脈です。まず薬物治療が適応されますが、これには限界があります。薬物治療をつづけて6ヶ月から一年経過しても心房細動発作が起こるようでしたらカテーテルアブレーションを考慮すべきでしょう。
2011年のアメリカ心臓協会(AHA)にてHot balloon カテーテルで治療した463例の治療成績(臨床研究の結果)と合併症のない極めて有用な治療戦略であること(図7)と安全性探索治験の結果を論文(文献2、Figure 2)上で発表しておりますので参考にして下さい。

図6:CARTOによる三次元マッピングで示された全肺静脈と左心房後壁の隔離:Box isolationの完成。
(赤い蝶形部が電位振幅0.02mV以下で、隔離された範囲をしめす) 

文献(1)

Sohara H, Satake S, et al. Feasibility of the Radiofrequency Hot Balloon Catheter for Isolation of the Posterior Left Atrium and Pulmonary Veins for the Treatment of Atrial Fibrillation.
Circ Arrhythmia Electrophysiol. 2009; 2: 225-232.

文献(2)

Hiroshi Sohara , Shutaro Satake, Hiroshi Takeda ,Yoshio Yamaguchi、Hideko Toyama, Kouichiro Kumagai, Taishi Kuwahara, Atushi Takahashi ,Tohru Ohe. Radiofrequency Hot Balloon Catheter Ablation for the Treatment of Atrial Fibrillation: A 3-Center Study in Japan. Journal of Arrhythmia. 2013;29:20-27

文献(3)

Yamaguchi Y, Sohara H, Takeda H, Satake S. Avoiding cerebral embolism during ablation of atrial fibrillation by the use of radiofrequency hot balloon catheter. Circulation 2011;314:4049 (Abstract).

文献(4)

Tanaka K, Satake S, Saito S, et al. A new radiofrequency thermal balloon catheter for pulmonary vein isolation. J Am Coll Cardiol. 2001;38: 2079 - 2086.

文献(5)

Satake S, Tanaka K, Saito S, Sohara H, et al. Usefulness of a new radiofrequency thermal balloon catheter for pulmonary vein isolation: a new device for treatment of atrial fibrillation. J Cardiovasc Electrophysiol. 2003;14:609 - 615.

図7

上図に示すように肺静脈電位(Pre)が一回の通電により完全に消失(Post)しています。

Jouranl of Arrhythmia 2012, in press. より

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